【週刊ビル経営Recommend!】シャッター街を再生 まちづくり成功事例

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富士市の遊休不動産を複合施設にリノベーション 「MARUICHI BLDG.1962」が広げた協力の輪

発端は地域の古ビル巡り ビルを購入しリノベに着手
 静岡県富士市吉原。岳南鉄道「吉原本町」駅を下車し吉原商店街を3分ほど歩くと、「丸一ビル」から生まれ変わった「MARUICHI BLDG.1962」が佇む。その名の通り、竣工されたのは1962年。築60年近いビルだ。かつては割烹旅館などが入居していたが、いつの間にかテナントはすべて撤退し、老朽化が進行。遊休不動産と化していた。
 東海道の宿場町だった「吉原本町」周辺は戦後しばらくの間は木造の街並みが続く商店街だった。1960年代、防災建築街区として大半のビルが建替えを行った。結果、60年近く経過した現在では老朽化したビルが並び、遊休不動産と化している建物も多い。
 「『丸一ビル』のほかにも、周辺には未活用の物件が数多くあります。街自体のポテンシャルが落ちているため、テナントが次第に出て行ってしまったのだと考えています」と語るのは、「丸一ビル」のリノベーションを行った富士山まちづくり(静岡県富士市)の代表取締役の佐野荘一氏。
ビルの老朽化が進み、シャッター街となりつつあった吉原宿の立て直しのためには、ビル賃貸・管理業を営む当事者が立ち上げらなければならないと考えて設立されたのが、富士山まちづくりだ。2012年に設立された同社は、2003年設立のNPO法人東海道・吉原宿(静岡県富士市)を母体としている。遊休不動産のリノベーションのほか、現在は中心市街地活性化に向けた各種調査や新規出店のサポートなど、まちづくりに関して幅広い事業に取り組んでいる。
 「丸一ビル」再生は、佐野氏の保有していた立体駐車場を会場にイベントを開催したことが発端とのひとつである。東京の大学を卒業後、地元の富士市に戻ってきた若手建築家の勝亦優祐氏たちが企画したイベントでは、過去何度か実施してきた吉原宿の古ビルを巡るまち歩きも盛り込まれた。佐野氏は「ビルを色々と見ていく中で、勝亦氏に特に老朽化の進んでいる『丸一ビル』を再生してみないかと提案しました。私自身が不動産賃貸業を家業で営んでいたこともあり、そのノウハウを生かせば実際に『丸一ビル』を再生できるのではないかと考えました。ビルを借り上げて運営するプランもありましたが、『一からリノベーションをして運営まで見据えるなら、自分で所有した方が色々と進めやすいのではないか』と思い、これまで何度もまち歩きに協力していただいている元のオーナーに相談し『丸一ビル』を購入。自らの保有物件としてリノベーションに着手しました」と振り返る。

仲間たちでDIYを実施 リーシングは入居者が担当
 「丸一ビル」は1フロア約20坪の地上4階建て。購入価格は600万円、リノベーションの施工費用は約3000万円。「丸一ビル」再生の鍵となったのは、駐車場のイベントに関わった街の再生に積極的な若者たちの存在だ。のちに「MARUICHI BLDG.1962」の2階にピザ店を開業した田村逸兵氏は、ビルのコンセプトや事業計画の立案にも協力してくれた。
 「田村氏はイベンターとしてフェスの企画なども手掛けており、プロジェクトの立案に長けています。古ビルであればなるべく短期間で資金回収できるプランを考え、自ら入居する部屋や家賃設定も提案してくれました」(佐野氏)。
 リノベーションはそうした仲間内で協力し、可能な限りDIYで進めた。勝亦氏、田村氏、そして工事関係は森岡氏、そのほかNPO関係者、大学生インターン、アーティストなど駐車場イベントに関わった人たちによってプロジェクトは進んでいった。その中で、唯一補助金を利用したのは、耐震診断。診断の結果、耐震性能に大きな問題はなかったが、一部の柱にカーボン繊維のシートを撒き補強を加えた。
 「『自分たちのビル』と言えるような、愛着が持てるビルに仕上げたかったので、できる限り自分たちで施工しました。ただ、思わぬ苦労もしました。『丸一ビル』は古いビルであるためか登記上の「公簿」と「現況」があっておらず、1階の床面積が土地の面積よりも大きく設定されているなど、銀行融資を受ける上での問題も発生しました。幸いにも融資担当者の尽力で事なきを得ましたが、古くからのまちでは起こり得る問題かもしれません」(佐野氏)。
 約半年の施工期間を経て「MARUICHI BLDG.1962」は完成した。1、2階には飲食店舗が入居、3,4階はシェアオフィスとして活用されている。施設の構成を考え、リーシングを進めているのは入居者である田村氏だ。また1階に入居するダイニングバーのオーナーは、地域の飲食事業者からも頼られる兄貴分で、田村氏の後押しで入居を決めたという背景もある。これらの店舗は、コロナ禍を乗り切って地元の若者を中心に賑わいが戻りつつある。3、4階のシェアオフィスにはデザイナーなどが入居するほか、「MARUICHI BLDG.1962」の仕掛け人のひとりである勝亦丸山建築計画が静岡オフィスとして活用している。
 今回のビルのリノベーションを通じて、佐野氏はエリアへの波及効果を実感しているという。「シャッター街となっていた吉原商店街ですが、「MARUICHI BLDG.1962」が開業して以来、飲食店を中心に60件以上の新規出店がありました。コロナ禍でも出店意欲のある人はいます。まちの空気が着実に変わり始め、このエリアが出店先の上位候補になったのではないかと感じています」。

地域で広がる不動産活用の輪 若者たちの挑戦がカギ
 富士山まちづくりでは「MARUICHI BLDG.1962」に次ぎ吉原商店街の裏通りにある、地上5階建て、1フロア25坪ほどの築50年以上の物件「澤田ビル」のリノベーションを手掛けた。1階に飲食店、2階をレンタルスペース、4、5階をゲストハウス「14 Guest House Mt.Fuji」とした。このような同社の地域活性の活動が積み重なって、いま「吉原宿を盛り上げたい」若者たちにかっこうの刺激を与えている。商店街で相続放棄された物件や遊休不動産化したビルを格安で購入し、活用していくケースが徐々に増え始めている。
 「『丸一ビル』の利活用の計画も多くの若者たちに手伝ってもらいました。今回の例に限らず、まちに関わる30代の若者たちによる身の丈にあったビル活用は、『地域のために何か行動したい』人たちが吉原には確実にいるということです。チャレンジ精神あふれる若者たちを、当社としても全面的に応援していきたいと考えています」。
吉原商店街では毎年6月に、東海一の祇園と称される「吉原祇園祭」が開催されてきた。この2年間、コロナ禍で中止となったものの、毎年約200店の露店が並び、約20万人の人出がある地元最大の祭りとして知られている。吉原商店街ならではの歴史を伝承しながら、若い世代が地域のために新しい挑戦をしていく。これこそが、地域活性の大きなエッセンスと言えよう。

(週刊ビル経営11月22日号6~7面より)

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